Kのhimaブログ

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「宇宙気候学」とは?宇宙線と天候

「美術大学で宇宙気候学に取り組む異色の研究者、宮原ひろ子教授が開発した世界初の解析手法とは」
https://www.rikelab.jp/study/8528
少々長い記事。以下に前半部分のみ引用して紹介します。


美術大学で宇宙気候学に取り組む異色の研究者、宮原ひろ子教授が開発した世界初の解析手法とは

2021.02.13

リケラボ編集部


私たちの住む地球といえば、太陽系の惑星の一つ。太陽があるから、地球には夜と昼が訪れ、日々の天気も変わります。しかし地球の天候に影響を与えるのは太陽だけとは限りません。たとえば宇宙から降り注ぐ高エネルギーの放射線(宇宙線)も、地球の天候に影響を与えているかもしれない、そんな新しい学問領域『宇宙気候学』に取り組むのが、武蔵野美術大学、通称“ムサビ”の宮原ひろ子教授です。過去に地球に降り注いだ宇宙線の痕跡は、樹木の年輪や南極の氷床に刻み込まれています。さらに宮原教授らのグループは、中国にある石灰岩に注目し、宇宙線の変動を知る画期的な手法開発にも成功。美術大学では異例ともいえる物理系の研究者に、その独自の研究内容とキャリアパスについてのお話を伺いました。



宇宙は地球環境に影響を与えているのか


―はじめに宇宙気候学の概要について教えてください。


宮原:宇宙気候学という新しい学問領域が提唱されたのは2007年のことでした。その10年前、1997年に「宇宙から降り注ぐ放射線量が、地球の天気を支配している」と主張する論文が出版されました。放射線が、大気中の水蒸気を雲粒に発達させるうえで、重要な役割を果たしているという説です。雲は光を強く反射するので、地球をおおう雲の量が増えると、太陽光が反射されて、地上の天気を左右する。この大胆な仮説を発表したのはデンマークの研究者スベンスマルク、宇宙気候学の提唱者です。ただ当時は、太陽活動と気候変動との関係さえ多くの研究者から懐疑的に捉えられていて、スベンスマルクの説も斬新すぎて受け入れられませんでした。ちなみに太陽活動とは、太陽表面での黒点や白斑の発生や、フレアと呼ばれる爆発現象などを指します。こうした現象を引き起こしているのは、太陽内部で作られる磁場です。


その後2001年にアメリカの地球化学者ボンドによって発表された論文が、大きな転機となりました。ボンドは、北大西洋の海底から採取された地層に含まれる、氷河性の砕屑物を精査しました。その結果、堆積物から推定された気候の変化と太陽活動の1000年規模の変動に関係があることが、明らかになったのです。つまり太陽活動の強弱が、地球の気候に影響を及ぼしているわけです。この論文が広く認められるようになり、宇宙気候学の成立へと繋がりました。


―太陽活動が、地球の気候に影響を及ぼすのですか。


宮原:直感的にわかりやすい例は、太陽の明るさが天候を左右しているという図式でしょう。もし太陽がより明るくなれば、当然地球に降り注ぐ光の量も増えます。すると地球が温められて気温が上昇する…という話であればわかりやすいのですが、残念ながらこの説明は事実に当てはまりません。なぜなら1980年頃から太陽放射のデータを人工衛星で取得してきていますが、放射データにはほとんど変化がないのです。太陽の活動は11年周期や様々な長周期で変化し、黒点の数は大きく変わりますが、光の量はほとんど変化しないのです。では、太陽の明るさ以外に、一体何が地球に影響を与えているのか。ほかに考えられる要素は、宇宙線(放射線)、太陽の紫外線、太陽風すなわち太陽から吹きつけてくるプラズマの風の3つです。宇宙気候学では主にこの3つについて研究が進められており、私は宇宙線に着目しています。


―太陽活動が地球に降り注ぐ宇宙線と関係していて、それが地球の気候に影響すると?


宮原:太陽から吹き出るプラズマや磁場の風は、海王星をはるかに超える距離まで届いています。それが、銀河系から降り注ぐ宇宙線を遮るシールドの役目を果たしているのです。太陽活動が活発になると太陽から吹く風が強くなり、宇宙線が地球に届きにくくなりますが、活動が下がると宇宙線が沢山届くようになります。これが11年のサイクルで繰り返されているのです。ただし、宇宙線の変動は紫外線などのデータととても似通っていますから、宇宙線がどれくらい気候に影響しているかを見分けるのはとても困難です。11年ごとに変動のパターンがわずかに変わるので、それを手掛かりにできないだろうかと考えています。


太陽の黒点数が増えると地球に飛来する宇宙線量が減少し、黒点数が減少すると宇宙線量は増える。明らかな反相関関係が見て取れる。



太陽活動の記録と一致する地球の変化


―太陽活動の変化が、地球の気候に影響を与えた具体的な例を教えてください。


宮原:有名なのが1645~1715年に起きた「マウンダー極小期」です。17世紀に活躍した天文学者らの観測記録によれば、この時期には黒点がほとんど観測されず、太陽がまるでのっぺらぼうのようになっていました。一方でこの頃の地球は小氷期に入っていて、ロンドン中心部を流れるテムズ川は頻繁に凍っていました。


―約70年間も太陽活動が弱まっていたのですね。


宮原:マウンダー極小期の一つ前には、シュペーラー極小期(1416~1534年)がありました。こういった時代はおよそ200年に1度発生するということが分かってきています。マウンダー極小期の太陽活動を詳しく調べてみたところ、黒点はずっと減少したままになっているけれども、磁気活動は周期的に変化していました。ただし11年周期ではなく、約14年の周期でした。逆に太陽活動が活発な時期には、活動周期が9年ぐらいなることも明らかになっています。


―9年、11年、14年ときめ細かく分析されていますが、どうしてそこまでわかるのでしょうか。


宮原:例えば炭素の同位体である炭素14の量を手がかりに探ることができます。高エネルギーの宇宙線が地球に降り注ぐと、大気中で炭素14がつくられ、植物などに取り込まれます。つまり炭素14は、太陽活動のバロメーターとなるのです。太陽活動が活発になると、地球に飛んでくる宇宙線の量が減り、その結果、宇宙線によってつくられる炭素14の量も減る。樹木の年輪に含まれる炭素14の量を丹念に調べると、1年ごとの炭素14の推移がわかります。私が解析に使ったのは、奈良県室生寺に生えていた樹齢約400年の一本杉や鹿児島の樹齢1800年の屋久杉から採取した試料でした。


「宇宙気候学」について解りやすく説明されていますね。
『太陽の活動は11年周期や様々な長周期で変化し、黒点の数は大きく変わりますが、光の量はほとんど変化しない』という意外な事実も分かりました。
ここに登場する宮原先生の話には、前々回紹介した動画の主張とかなり共通するものがあります。


この後、トラバーチン(石灰質堆積物)の解析、日本の古文書を使った研究等の話が続きます。
続きが読みたい方は、元の記事をご覧ください。